【徹底レビュー|新型プリウス 60系】プリウスはどうやってスポーツカーに生まれ変わったのか?超マニアック目線で考察してみた

試乗レビュー
エンジン型式M20A-FXS
排気量1986cc
最高出力152ps(112kW)/6000rpm+モーター(41‌PS)=196‌PS
最大トルク19.2kg・m(188N・m)/4400~5200rpm
PWR7.71
PWR / GCVTでファイナルギアが無いため不明
GWR3.79
種類2L直4+モーター
全長/全幅/全高4600mm / 1780mm / 1430mm
ホイールベース2750mm
車両重量1480kg
乗車定員5名
新車時価格3,920,000円
  • 見た目以上の進化を果たした”プリウス”
  • 200馬力のM3というような高次元のハンドリング性能
  • 運転の楽しさと燃費、どちらも犠牲にしない初めてのエコカー

新型プリウスは見た目以上にスポーティーな車に進化を果たしていた。「エコカー」から「エコなスポーツカー」に進化したといっても良いだろう。

この記事では、色々な雑誌やYoutubeの動画で「走りの性能」が話題になっている新型プリウス(60系)は、どのようにして驚くべき進化を遂げたのか。車好きが積極的にプリウスを選びたくなる理由とはなにか。どうやってプリウスは見た目以上のスポーティーな走行性能を手に入れたのか。マニアックであまり普通の記事では触れられていない内容に着目して、マニアックなレビューをお届けする。

マニアックでディープな世界を覗きたい方は、ぜひ最後まで本文を読んでみてほしい。「構造まで深掘りすれば、車の走りはもっとおもしろい!車好きの知的好奇心をくすぐるサイト」カーキチブログへようこそ!

加速性能

「エコカーと思えぬ一体感」

新型プリウスに足を踏み入れると、驚くべきことに、スポーツカーに身を投じたかのような興奮が待っている。なぜかというと、新型プリウスは、まるでスポーツカーのように、アクセルを踏むや否や、ドライバーの意のままに滑り出すからだ。

エコカーの現行の風潮は、燃費を優先した結果、ドライバーのアクセル操作と車の加速度が必ずしも一致しないこと。それでは、ドライバーと車の一体感は薄れ、運転の楽しみは半減してしまう。

しかし、この新型プリウスは、ハイブリッドのバッテリー技術を駆使することで、優れた燃費性能を保ちつつも、まるでスポーツカーに搭載されるハイレスポンスのエンジンのように、アクセルを踏むと同時に車は前方へと加速する。これにより、ドライバーと車との一体感が湧き上がり、まるでスポーツカーに乗り、駆け抜けているかのような喜びが体験できるのである。

これから先では、なぜ新型プリウスがリッター25キロ以上を走破するエコカーでありながら、スポーツカーのような感覚を味わえるのかを、エンジンとミッションの観点から考察していきたい。

エンジン性能

エコ技術をファンドライビングに変換

新型プリウスは、アクセルを踏み込んだ瞬間から魅力的な加速感が体験できるのは、その独自のハイブリッド技術の使い方によるものだ。今までハイブリッド車のバッテリーは主に燃費の向上を目的として利用されていたが、この新型プリウスではその考え方が一新されているのだ。

手元のスイッチでスポーツモードに切り替えると、新型プリウスはハイブリッド技術を、単なる燃費向上だけでなく、エンジンのパフォーマンスを補完する手段として利用するのだ。このハイブリッド技術に対する思考の変革は、ハイブリッド=エコだけという既成概念を破壊し、新たな可能性を広げたように感じた。

それでは、具体的にどのような感覚を体験できるのか。

まずエンジンの性質を考えてみたい。一般的にエンジンは低回転域では全開の性能を発揮できない。一方で、バッテリーはアクセルを踏んだその瞬間から最大出力を発揮することが出来る。

新型プリウスでは、これらの特性を組み合わせて利用していた。アクセルを踏み込むと、最初の加速はバッテリーが担当。その間にエンジンは回転数を上げ、さらなるパワーを発揮できる。この組み合わせは現代のハイブリッドスーパーカーでも利用されており、ハイブリッド技術がエコカーに対して新たな可能性を示しているように感じた。いままでは高価格帯の一部の車にしか搭載できなかった高性能エンジンがもたらすハイレスポンスな加速フィーリングに近い感覚を普及モデルの乗用車で味わえるようにしたのだ。

このアイデアは、ただ車のデザインをスポーティーに見せるだけでなく、その設計や開発の全てにおいてスポーティーさを追求するというプリウスのコンセプトから生まれたものです。そして、これこそが新型プリウスが提供する、まったく新しいドライビング体験の秘訣なのです。

初採用の2.0Lエンジンが生む豊かなトルク

これまでのプリウスに搭載されていたエンジンは最大でも1.8Lでしたが、新型プリウスではスポーツ性能を追求するために、燃費面での不利を承知で2.0Lエンジンを搭載したモデルをラインナップに加えました。これはいかにプリウスがスポーティな性能に重きを置いているかを示す証だ。

新型プリウスに搭載されるエンジンは「M20A-FXS」と名付けられたユニットで、2018年に初めてLEXUSのUXに搭載された。スペックは152馬力とトルク19.2キロ、加えて、41馬力を発揮するモーターがこれに組み合わされ、合計192馬力を発揮する。

ただし、これらのスペックだけを見ると、一昔前のBMWのM3と比較するなどという話はおこがましいと感じる方もいるだろう。確かに、パワーやエンジンのフィーリングだけを見れば、M3には遠く及ばない。高精度に組み上げられたエンジンが発する特有のフィーリングを、価格を抑えた乗用車で再現することは難しい。

しかし、ここで大切なのは、高性能スポーツカーがもたらす「アクセルを踏むとすぐに車が加速する」という体験を、バッテリー技術を用いることでWLTCモードでの燃費26.7km/リットルという高燃費を達成しつつ提供している点だ。これまで「エコ」のためだけに使われていたハイブリッド技術が「楽しさ」に変換された形は、新たな発見と評価すべき点だとおもう。

ミッション性能

走りを楽しむためのCVT

新型プリウスに乗ると、「Powerモード」を選択してシフト操作をすることで驚くほど思い通りの運転ができる。その加速性能は優れているだけでなく、自分でギアチェンジを感じる楽しさも与えてくれる。

シフト操作機能が運転の魅力を一層引き立てる存在となっている。CVTでありながらドライバーは自分でギアチェンジを体感しながら、車との深い一体感を得ることができる。

さらに、新型プリウスはエコカーでありながら、スポーツモードを選ぶとエンジンの回転数を燃費効率が低下する中回転域に保つ設定になっている。これはエコカーとしては大胆な設定だが、その結果エンジンのレスポンスが向上している。そして、新型プリウスも先代と同じくCVTを採用しており、これが加速性能の向上に寄与している。

CVTは一般に、高い燃費効率をもたらすとされるが、スポーツ走行にはあまり適していないと考えられがちだ。しかし、ラリーカーなどの競技車両ではCVTが採用されることもあり、その設定次第でスポーツ走行にも適したなめらかな加速を実現する性能を発揮する。

CVTの特性を利用すれば、エンジンの回転数を一定に保つことができる。これにより、エンジンのトルクが最大となる回転数域を常に維持するチューニングが可能だ。新型プリウスでは、エンジン排気量を2.0Lに増大したことで得られたトルクの向上と、このトルクバンドを維持できるCVTの特性が相まって、加速性能の向上に大いに寄与している。

CVTは、見た目はエコ志向のトランスミッションだが、設定によっては運転の楽しさを一層引き立てるものに変貌する。これこそが新型プリウスの一つの魅力である。

コーナリング性能

スポーツカーを凌駕するハンドリング

新型プリウスのドライバーは、まるでスポーツカーを運転しているかのような感覚に包まれるだろう。ハンドルを切ると、車は即座に反応し、ドライバーの意図通りに動く。それはスポーツカーが持つような、素早くて軽快なハンドリングだ。フロントとリアが一体となった感覚は非常に良く、まさにこの車はハンドリングマシンと呼ぶに相応しい。

そのダイレクトな反応は、スポーツカーに乗っているかのような感覚を生む。他の車と比較するなら、BMWの車やゴルフGTIに近い感じだ。

新型プリウス60系の魅力は、ただ単に加速時の一体感だけでなく、それ以上にコーナリング性能の卓越さにある。また、この車が驚異的なのはその限界値の高さだ。

試乗中には様々な運転操作を試みたが、どんなに負荷をかけても車は一度も破綻しなかった。フルブレーキをかけながらハンドルを大きく切ったり、車を左右に激しく揺すったりしても、車の姿勢はびくともしなかった。

このような車は、スポーツカーの中でも珍しく、高剛性なボディを持つ最新の高性能車にしか見られない特性だ。それはBMWのF80型M3や二代目のポルシェパナメーラなど、4ドアセダンでありながら激しい動きにも対応できる車のイメージに近い。しかし、それが2000年初頭の車であれば、たとえそれが高級スポーツカーであっても難しい。ところが新型プリウスはそんな動きを見せる。プリウスがこれほどスポーツ性能に優れているとは、誰が想像しただろうか。

では、なぜプリウスはスポーツカーのようなコーナリング性能を手に入れることができたのか。それを理解するために主にサスペンションとシャシー、この2つの要素に注目していく。

サスペンション性能

ハンドリングを支える超こだわり設計

新型プリウスのハンドリング性能の一部は確かにサスペンション設計に由来します。フロントは従来と同様にストラット形式、リアにはスポーツカーの代名詞とも言えるダブルウィッシュボーン形式が採用されている。

しかし、これだけでは新型プリウスの素晴らしいハンドリング性能を説明することはできない。その理由は、このようなサスペンション形式を持ちながらも新型プリウスには及ばない車があるからだ。

車の下に潜り込み、サスペンションの設計を詳しく観察すると、いくつかの重要な点が見つかったのでご紹介したい。

まず、フロントサスペンションだ。

この写真を見ていただきたい。

まずフロントサスペンションのロアアームが非常に太いことがわかる。このような太いパーツは、通常は高級セダンや車重が1600キロ~1700キロを超える車にしか見られない(新型プリウスの車重は約1350キロ)。サスペンションを構成する各パーツの剛性を高めることは、ハンドリング性能の向上に直結する。サスペンションの剛性が保証されることで、ハンドルを切ってタイヤが傾いたときや路面にうねりがある時でも、サスペンションのジオメトリーが設計時の理想状態からずれることが少なくなる。これにより、車が動いているときでも設計通りのハンドリングが可能になるのだ。

次に、リアサスペンションも同様に、頑丈で高品質なパーツで構成されています。これらはメルセデス・ベンツのCクラスやBMWの3シリーズなどの高級車に使われているものと同等といっても過言ではない品質にみえる頑丈なつくりをしていた。

ダブルウィッシュボーン形式のサスペンションを採用すると、サスペンションがスペースを取ってしまい、プリウスのユーザーがスポーツ性能以上に車に求めている荷室スペースが狭くなってしまうというデメリットがある。しかし、新型プリウスは、ダブルウィッシュボーン形式のサスペンションを採用しつつも、荷室スペースを減らさずに実現している。ここには、トヨタがアルファードなどのワンボックスカーにもダブルウィッシュボーンを採用してきたことで培ったノウハウが生かされているのではないかとおもう。このようにフルラインナップを揃えるトヨタというメーカーの総力を上げた車作りが行われているのだ。

シャシー性能

ボディは力だ

次に重要な要素として挙げられるのが、シャシーだ。サスペンションがその全能を発揮するには、まずシャシーの高い剛性が求められる。例えば、家を考えてみてほしい。どんなに頑丈な鉄筋コンクリートの家でも、その基盤が沼地では地震の際には倒壊してしまう。

それと同じように、サスペンションの設計が如何に洗練されていても、剛性の高いサスペンションを搭載していても、その基盤であるボディが歪んでしまっては、サスペンションのジオメトリーは崩れてしまう。

一般的に、私たちが想像する車のボディは、金属で出来た頑丈な箱だとおもう。まさか、運転中にこの金属の箱がぐにゃぐにゃ歪んでいるとは予想しないとおもう。しかし、実際の車のボディは、中身が空のティッシュ箱のように、力が加わると簡単に歪んでしまうのだ。道路は一見すると平らに見えるが、実は沢山の起伏があり車は常に歪んだ状態で走行しているのだ。(走行中の車のドアモールの間に指を挟んでみると、ボディが歪んでいることが確認できます。)

だからこそ、ハンドリングを改善し、快適な乗り心地を実現するためにはボディを頑丈につくりあげることが重要なのだ。(これがボディ剛性とよばれる理由だ。)

長年日本車はドイツ車を筆頭とする欧州車に対してボディ剛性で劣ると言われてきた。しかし、この新型プリウスのボディはとても頑丈で走行中に安心感があった。ついに国産車が欧州車基準に到達したと感じることができのだ。

新型プリウスの特徴的な要素の一つは、第二世代のTNGA(Toyota New Global Architecture)プラットフォームをベースとしたシャシーを採用していることだ。

この第二世代TNGAプラットフォームは、構造と組み立て方にこだわることでボディ剛性を大幅に向上させ、新型プリウスに投入された豪華なサスペンションの性能を最大限に発揮している。その結果、優れたハンドリング性能が実現されているのだ。

このようにハンドリング性能は、見えない部分であるサスペンション設計やシャシーの剛性に大いに依存する。そのため、新型プリウスの優れたコーナリング性能や、限界値の高さは、これらの見えない部分の設計や工夫によるものといえるのだ。

まとめ

まとめると、新型プリウスの驚くべきハンドリング性能は、サスペンション設計の優秀さと、第二世代TNGAプラットフォームの剛性向上によるものと言えるだろう。また、それらを実現しながらも、荷室スペースを犠牲にしない設計は、トヨタの技術力の高さを改めて示していると感じた。

語っても語りつくせない新生トヨタが生み出した60系プリウスの魅力は伝わったでしょうか。

ひと目に刷新されたスポーティーなデザイン以上に中身もスポーツに刷新されていたことが伝わったでしょうか。

運転が大好きな私としては今後のトヨタ車への期待がさらに高まる一台でした。

これからも、車好きの方々にとっての冒険サイトである「カーキチブログ」では、新型プリウスをはじめとする多くの車種について、技術的な解説や走行性能の詳細な情報を提供してまいります。私たちと一緒に、車の魅力についてさらに深く探求していきましょう。どうぞお楽しみに。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。また次回の記事でお会いしましょう!

長尾 孟大

長尾 孟大

株式会社Carkichi 代表取締役 。慶應義塾大学卒業後メガベンチャーに就職、プロジェクトマネージャーとして新規事業の立ち上げを行う。 その後、車好きがこうじて「クルマ好きを増やしたい」という思いで独立、その後自動車業界に特化した映像制作やマーケティング支援を行うCarkichiを設立。2020年9月法人化。2023年MBA取得。自動車メディア「旧車王ちゃんねる」「外車王SOKEN」などへ出演、寄稿中。趣味はカート、愛車はE55AMG。いつか手に入れたい車はR35GTR 2013モデル / S2000 / アリエルアトム。

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長尾 孟大

長尾 孟大

株式会社CARKICHI 代表取締役 映像制作、モータースポーツ企画。2020年9月法人化。 自動車メディア「外車王SOKEN」へ寄稿中。Esports World (Powered by AKRacing)にて「eスポーツはアマチュアレーサーの練習になるのか? 『アセットコルサ コンペティツィオーネ』×「K-TAI」で検証してみた」(2021年12月24日付)と題して、掲載される。

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