【徹底レビュー|BMW E63 M6】V10を積んだ究極の駆け抜ける喜び

試乗レビュー
エンジン型式S85B50
排気量4999cc
最高出力507ps(373kW)/7750rpm
最大トルク 53.0kg・m(520N・m)/6100rpm
PWR 3.37
PWR/G0.99
GWR 3.37
種類5リッター V10 DOHC 40バルブ
全長/全幅/全高4870mm / 1855mm / 1370mm
ホイールベース 2780mm
車両重量1820kg
乗車定員4名
新車時価格15,600,000円

導入

  • V10を積んだ究極の駆け抜ける喜び
  • E60M5とM6は実は別物の感動
  • BMWの真髄を感じたい人にオススメ

BMWが理想するとする車はE63M6だったのか。そんなメッセージが開発陣から伝わってくるBMWらしさとドライビングプレジャーともいえる至高のドライビングフィールが味わえる最高の一台だ。

M6は運転好きにとって最高の車だ。兄弟車のE60M5が少しスポーティーになったと思いきや、そのハンドリングはまるで異次元。M6はM5はまるっきり別のコンセプトで作られた刺激にあふれる一台で、一度乗れば忘れられない魅力に取り憑かれること間違いない。

M5と同じエンジンだと高を括ってはいけない。M6はエキマニ変更の効果により、エンジンフィーリングは別物だ。

若い頃は外車で言えばエリーゼやZ3、国産車で言えばRX7やS2000といったライトウェイトスポーツカーで運転を楽しまれた方が大人になってからも、その感動を再び味わいたいという方に是非乗っていただきたい一台だ。

それでは、どうやってM6がここまで驚くべき走行性能を手に入れたのか。M6の具体的な走り心地や、その裏にあるエンジン技術の解説などをしていきます。マニアックでディープな解説に興味がある方は是非最後まで本文を読んで下さい。

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加速性能

M6のドライバーは移動時間の全てを最高の娯楽体験と変換することが出来る。M6に収められたエンジンのフィーリングは格別で、素晴らしい音色を奏でながらその巨体をすごい勢いで加速させていく。

特に高速道路の料金所あけや、ワインディングはオーナーの至福のひとときとなるだろう。自分の思い通りに巨体を操ることがこれほどまでに気持ちいいのか。感動すること間違いない。

このM6のエンジンはとにかく気持ちが良い。
兄弟車にあたるE60M5のエンジンも上質で滑らかでフィーリングが良いのだが、このM6に積まれている心臓はそれを上回る。なにが違うのかというと具体的にはレスポンスが良いのだ。M5に対してM6のほうが回転数の上がり方が鋭く、エンジンが低回転域から高回転域まで勢いよく吹け上がる。
そのため、運転手が感じられるフィーリングはM5のそれとM6はまるで別物なのだ。
実際の加速性能でもM6はM5に対して0→100km加速は0.1秒速い、この差は高速域にいくほど広がるだろう。
なぜなら、カタログスペックに表れるピークパワーこそ差がないが、そこまでのエンジンの出力曲線は明らかに、M6のほうがトルクバンドが広く、速いエンジンに仕上がっていると感じたからだ。

エンジン性能

ドライバーに寸分違わず呼応する強心臓

M6のドライバーはオーケストラの指揮者になった気分が味わえる。BMWが誇る名機ともいえるV10エンジン、S85B50を操る指揮者だ。アクセルペダルは指揮棒だ。ドライバーの細かいペダル操作に寸分違わず呼応してエンジンやマフラーから心地よいサウンドが奏でられるのだ。淀みなく吹け上がるマフラー音、そして耳をすませば車内には10連スロットルエンジン音まで聞こえてくる。そしてそのリズムと寸分くるわずに車が加速するのだ。

このエンジンはBMWが最初で最後に市販車に搭載させたV10エンジンである。

このエンジンの魅力は、単にV10エンジンであるだけではない。個々のシリンダーに空気を吸気する10連スロットルを搭載しているのだ。通常のエンジンでは、1つのスロットルから吸気した空気を各シリンダーへ配分するが、このエンジンは1つのシリンダーに1つの吸気口を持つ、レーシングカーに採用される本格的な技術を量産車でありなが実装しているのだ。

Mの名にふさわしいレーシングエンジン

この別格のドライバー体験をもたらすエンジンは、10連スロットル以外にもエンジンの内部構造もレーシングエンジンのようなスペシャルな設計となっている。具体的には、エンジンの内部構造は、2ピースアルミクランクケース、ワンピースアルミシリンダーヘッド、鍛鋼クラウンクシャフト、ダブルオーバーヘッドカムシャフトで構成されている。細部にこだわり抜いた設計と高品質なパーツが組み合わさったことでもたらされるドライバー体験であることが分かる。

さらにこの高コストなエンジンが優れているのはエンジンマネジメントシステムも同様だ。BMW独自の技術であるダブルVANOSを搭載し、吸気側と排気側の両方のバルブタイミングを可変でコントロールすることで、エンジンを低回転域から高回転域まで効率的に燃焼させる。さらに、市販車でありながら、セミドライサンプ式潤滑システムを採用し、メインポンプ、循環ポンプ、そして各シリンダーバンクに1つずつ設置された2つの排気ポンプを備えている。

このハードウェア、ソフトウエアともに最適化されたエンジンは、驚異的な7750回転で最大出力を発揮し、8250回転までの超高回転を許容する。これがドライバーを指揮者のような感動体験をもたらすBMWの技術だ。

さらに、マニアックなドライバーの皆さんが気にされるエンジン重量もしっかりと配慮されている。エンジン重量は240キロとV10エンジンでありながら一般的なV8エンジン並まで軽量化に成功していることが分かる

細部に宿るM6とM5の違い

ここまで、M6エンジンの魅力を説明したが、なぜ同じエンジンが積まれるM5とM6で、M6のほうがフィーリングが良いかというと、それは、エキゾーストマニホールド(エキマニ)の形状の違いである。

M5はセダンのため、キャビン空間を確保する必要があり、エンジンとキャビン間の距離が短い。この結果、エキマニの集合部分までの距離が短くなる。一方、M6は4座であってもキャビンを狭めて問題ないため、エキマニ集合部分への距離の余裕が生まれる。

この空間を活用することで、排気効率の向上や低速時の意図的な排気干渉による低速トルク向上が可能となる。シリンダーの多いV10エンジンでは、理想的なエキマニ形状を作るために多くのスペースが必要であったということだ。結果としてM6ではエンジンを引き立たせドライバーに興奮をもたらす理想的なエキゾーストシステムが実現できた。

コーナリング性能

M6のドライバーはレーシングドライバーの気分を味わえる。自分のステアリング操作に対してM6は忠実にトレースする。美しく甘美なエンジン音を奏でながら、思い通りに車を操れる感覚は車好きにとって快楽とも言えるフィーリングだ。あまりにも素直に安定して車が動くので、まるで自分がレーサーになったか、運転が何倍もうまくなったかのような錯覚をもたらす。

M6の魅力は、単なるエンジン性能だけではない。それはこの車の卓越したコーナリング性能だ。BMWが標榜する「駆け抜ける喜び」はまさにこの感覚を指すのだろう。

この気持ちの良い車の動きとは一体どんな動きか。M6のステアリングを切ると、車は1800キロもあるとは思えぬ素早く軽快に車体が内側に向かって曲がる。

ドライバーの意に沿うダイレクトな応答性と瞬発力は、まるで1トン前半の車に乗っているかのような感覚を覚える。外車で例えるならZ3Mクーペ、124スパイダー、国産車ではS2000を操っている感覚だ。ひらりと舞うように車の向きが変わる。そして一度姿勢が整うと、ロングホイールベースのメリットを活かし、軽快だった動きが嘘だったかのように安定感のある動きを見せる。この二面性とも言えるような相反する要素を持ち合わせているのが、M6がライトウェイトスポーツカーにはない大人のスポーツカーとしての魅力だ。

それでは、この先ではどうやってM6がこれほどのまでのドライビングプレジャーを生み出すことができたのか。サスペンションとシャシーの観点からさらに深掘りしていこう。

サスペンション性能

楽しさと乗り心地の2つを手にする

M6のドライバーにはレーシングドライバーが体験するような思い通りのハンドリングが提供される。しかし1つ懸念点がある。レーシングカーのような車は乗り心地が悪いのではないか。

答えはNOだ。このM6に限っては乗り心地も良いのだ。ドライバーに路面状況を伝えるインフォメーションを与えながらも、ステアリングやシート越しにドライバーへ届くインフォメーションは全て、角が取れた不快感だけ取り除かれた状態で届くのだ。

M6は本格的なスポーツカーでありながら柔らかいサスペンションを採用している。コーナーを曲がると車はロールもする。しかしながら、前後のサスペンションが適切に働きタイヤのロードホールディング性が非常に良いのでロールをしてもドライバーは怖くはないのだ。ALPINAのようにロールを旋回エネルギーに変換しているような動きをする。もちろん、エリーゼのようなハードコアのスポーツカー特有の硬めのサスペンションの車に乗り慣れている方は、車に乗り始めて直ぐはコーナリング中のロールに違和感を感じるかもしれない。しかし、すぐにドライバーは気づくだろう。この車はロールしても全く問題ない。乗り心地が良い車はコーナリング性能が犠牲になることが多いが、この車はそのような問題はない。まさに、紳士のスポーツカーなのだ。

さらに、M6には標準で可変ダンパーシステムが搭載されており、車内からスイッチ1つで自由にサスペンションのモードを切り替えることができる。いままで述べたようにスポーツモードでも角の取れたサスペンションだが、ノーマルモードにすることで、この車はスーツをきたアスリートのように、その秘めた運動性能を見事にカモフラージュした落ち着いた大人のラグジュアリーカーへと変身するのだ。

開発力とコストが生む上品な乗り心地

この相反する特性の両立はサスペンションの設計と製造による恩恵だ。

とくにリアサスペンションの設計にあるように感じた。形式としてはインテグラル・アーム式というBMWがリアに使用しているサスペンションなのだが、下記の写真の青枠内をみていただきたい。

ロアアームは本来の「アーム」ではなく「板状の塊」である。ここまで立派なロアアームはなかなかお目にかかれない。これだけ頑丈なロアアームだからこそ、コーナリング中にロールしたあともアームがねじれることなく、設計時の理想的なジオメトリーを保ち続け高いコーナリング性能を維持できるのだ。販売当初はスーパーカーに引けを取らない高価格帯で販売していたからこそ実装できた、高品質なパーツがこの車のハンドリングを生み出しているのだ。

シャシー性能

ハンドリングを支える屋台骨

M6の乗り心地はとても上品で、高速道路でもワインディングでも堅牢なボディに包まれているという安心感がある。

実はハンドリングにおいてもっとも重要な要素は車の土台となるシャシー(≒ボディ)だ。例えば、家を想像して欲しい。どんなに頑丈な鉄筋コンクリートの家でも、その地盤が沼地では地震ですぐに倒れてしてしまう。

まず、高い剛性が確保たシャシーがあって初めてサスペンションが性能を100%発揮することができるのだ。だからこそ、ドライバーが求めるドライビングプレジャーを叶えるハンドリングを実現し、さらに快適な乗り心地を実現するためには頑丈なシャシーをつくりあげることがとても重要なのだ。この点においてM6のシャシーはM5より圧倒的に剛性感が高くて高速道路の走行時や安心感がある。

とくに、M5のようにリアアクスルの剛性が不足してコーナリング中にサスペンションジオメトリーが崩れる心配がない。これはワインディングをドライブする上で非常に重要な点だ。

さらにホイールベースはM5に比べて約11cm短い。これによりフロントタイヤを切ってからのリアタイヤへ応力が伝わる時間も短縮されることにより、ハンドリングの応答性も高まり、M6が生み出すドライバーと車の強固な一体感を支えている。まさに屋台骨といえるシャシーだ。

車重

軽量化だけでなく低重心化に勤しんだ大型ボディ

M6はステアリングを切った瞬間にまるでライトウェイトスポーツカーのような身軽な身のこなしをしてくれる。この動きはレスポンスの良いエンジンと組み合わさることで、M6の大きな魅力の1つとなっているのだが、このワインディングでの気持ちよさを引き立てるハンドリングは物理的制約に最適化したボディがあるから実現できるのだ。

軽量化、低重心化が施されたM6のボディはM5と比較して約60キロも軽量なのだ。

特に注目すべきは、カーボン製のルーフを採用したことで、スチールに対して4.5キロのダイエットと低重心化に貢献している。

50:50の真意

BMWはコーナリング性能を高めるために、50:50の前後バランスだけではなく、「重量物の集中化」に強くこだわっている。重量物をなるべく車体中央に集めることで、コーナリング中に生まれる遠心力の影響を最小限に抑えるという考え方だ。

この努力によって、車重1800キロ台と聞くと重たくて鈍い動きをすると思われるような大型のラグジュアリークーペをその見た目やカタログスペックからは想像できないほど身軽な車に仕上げているのだ。

具体的には、大型のV10エンジンをフロントアクスルよりも内側に配置している。車輪の内側に重たいエンジンが配置されることで、エンジンの荷重を前輪だけではなくて後輪にも多く分配し、コーナリング性能を向上させようとしているのだ。

M6がこだわっているのはエンジン位置だけではない。フロントフェンダーも軽量化のために樹脂製を採用し、ボンネットも軽量なアルミ製となっている。さらに、BMWはドライバーの位置にもこだわっている。車体を真横から見ると運転席が車体の中心に配置されている。遠心力の影響が大きくなる外側には、重量物を極力配置しないようにしているのだ。

このような細部までのこだわりが、BMWの情熱と技術力を象徴しているといえるだろう。M6はこうした開発陣の努力が積み重ねることで、ドライバーへ究極のドライビング体験を提供しているのだ。

空力性能

技が詰まったフロア下

M6のこだわりは普段目につかないところまで及んでいる。BMWはM6というレーシングカーのようなハイパフォーマンスラグジュアリークーペを開発するにあたって、エクステリアの雰囲気を壊したくなかったのだろう。見た目はあくまでラグジュアリークーペ、しかし、一度アクセルに火をいれると隠していた爪は剥き出しとなる。そんなコンセプトを実現するためには、床下でダウンフォースを稼ぐことが必要だったのだろう。

通常目に触れることのないこの部分に、数々の工夫が施されている。特に目を引くのは、ハの字型のフィンで床下の空気の流れをコントロールしている。さらにはNACAダクトも設けられており、空気を乱さずに効率的にパーツを冷やす工夫までされている。

ここまで技術と情熱が詰まったE63M6は、空力性能も追求したことで、単なる速さだけでなく、上質な乗り心地やハンドリングできるようになったのだろう。

ブレーキ性能

M6のブレーキならドライバーは思い通りに車速をコントロールできる。加速性能だけが秀でた車はなにかアクシデントがあった際に対応できないかもしれないという不安が頭をよぎってしまい気持ちよくアクセルを踏むことができない。しかし、M6のブレーキは絶対的な制動力だけではなく、とてもコントロールしやすい安心感のあるブレーキが採用されっている。

M5は少々ブレーキに不安を感じる側面もあったが、M6はフロント374φ、リア370φの大径ベンチレーテッドブレーキが強力で安定した減速力を生み出し、万が一の時にも安心して対応できそうなキャパシティを感じた。またディスクローターは近年に多いカーボンセラミックブレーキではなく、スチール製なので「暖機」を気にする必要がなく必要なときにすぐ踏めるのも魅力だ。

またM5はフルブレーキをするとリアの剛性不足により、フルブレーキ時はリアアクスル全体が揺られてしまいブレーキング時にリアタイヤが暴れることがあったが、M6は頑丈なボディのお陰でこういったブレーキング時の不安もなかったのが印象的だ。

M6は見た目がラグジュアリークーペでありながら、スーパーカーの座も狙える本当のスポーツカーとして作り込まれている証だろう。

まとめ

M6が他の車種とは一線を画す魅力的なモデルであることが伝わったでしょうか。

M6の魅力は、単なるパワーやスピードだけではなく、エンジニアたちのクルマへの情熱や、技術的な細部へのこだわりが、最高のドライビング体験を生み出していることにある。そのため、M6を運転することは、ただ速く走るだけではなく、BMWの精神や技術力を肌で感じられる貴重な経験となると感じた。

これら全ての要素が絶妙に調和したM6は、ライトウェイトスポーツカーのような軽快なハンドリングと異次元のエンジンフィーリングを発揮する。まさに「駆け抜ける喜び」を体感させてくれる車といえるだろう。

以前に比べて少し値上がりしたとはいえ、依然としてM6の中古車相場はバーゲンプライスということなのだ。エンジンなどの故障トラブルへの懸念点などはあるが、修理費分は中古車価格からディスカウントされているとおもって、おもいきって手にすると幸せなカーライフが待っている。

これからも、車好きの方々にとっての知的探究心をくすぐるサイトである「カーキチブログ」では、M6をはじめとする多くの車種について、技術的な解説や走行性能の詳細な情報を提供していきたい。

私たちと一緒に、車の魅力についてさらに深く探求していきましょう。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。また次回の記事でお会いしましょう!

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長尾 孟大

長尾 孟大

株式会社CARKICHI 代表取締役 映像制作、モータースポーツ企画。2020年9月法人化。 自動車メディア「外車王SOKEN」へ寄稿中。Esports World (Powered by AKRacing)にて「eスポーツはアマチュアレーサーの練習になるのか? 『アセットコルサ コンペティツィオーネ』×「K-TAI」で検証してみた」(2021年12月24日付)と題して、掲載される。

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