製造年 | 2003-2005 |
エンジン型式 | M113K |
排気量 | 5438cc |
最高出力 | 476ps(350kW)/6100rpm |
最大トルク | 71.4kg・m(700N・m)/2650~4000rpm |
PWR | 4.01 |
PWRG | 1.52 |
GWR | 3.75 |
種類 | 5.5リッターV8 SOHC 24バルブ スーパーチャージャー |
全長 / 全幅 / 全高 | 4850mm / 1820mm / 1430mm |
ホイールベース | 2855mm |
車両重量 | 1910kg |
乗車定員 | 5名 |
新車時価格 | 1323万円 |
導入
- 羊の皮をかぶった狼を文字通り体現した一台
- 大人しいセダンに見えるが、476馬力のトルク71.4キロの心臓を積む
- 日常のなかに暴力的な加速体験というスパイスを求める方にオススメの一台
W211E55AMG(以下:E55)のドライバーはアクセルを踏むと、首と頭がシートに押し付けられる加速を体験することとなる。一見すると普通のセダンで、最新のAMGのような派手なエクステリアは一切無いのだが、同世代のフェラーリにも負けないような加速感を味わうことができるのだ。
しかも、当時のAMGは後輪駆動にこだわっていた。2000回転台から71キロのトルクを扱う理性と技量が求められる一台。大人しく紳士的に見えるのはその外見だけだ。コンソールボックスのスイッチを押すだけで狼へと生まれ変わる。
E55は現代の車が効率化の中で失った個性をエンジンから感じたい人にオススメの癖の強い大人のツーリングカーだ。
加速性能
力こそ正義
E55のドライバーは競馬の騎手になった気分を味わうことになる。信号が青になった瞬間にアクセルを踏むと車はスーパーチャージャーが生み出す恐ろしいエンジン音と伴にまるでジェットコースターのように、暴力的な加速をしていく。まさにじゃじゃ馬だ。
5500ccのV8にスーパーチャージャーを積んだAMG製の心臓は476馬力、トルク71.4キロの力を生み出す。ダウンサイジングされた現代のエンジンからは感じられない力強さを全身で体感できるのが特徴だ。
この車一番の魅力は、70キロを超えるトルクだ。紳士的な佇まいからは想像できない加速感とのギャップが非日常的な体験を生み出し実に心地よいのだ。0→100kmの加速は当時のスーパーカーと競える4.8秒、さらにリミッターを外すと300キロオーバーの最高速度を実現することができる性能を秘めている。
そのためドライバーに届くフィーリングはスリリングそのものだ。これだけ恐ろしいパワーがあるにも関わらず2輪駆動のため、リアタイヤはすぐに暴れ始める。マニュアルモードの状態では、2速でもホイールスピンを起こすし、雑にアクセルを踏むと交差点でスピンしそうになる。こういった電子制御の介入が現代の車に比べて少ないのもE55の醍醐味の1つだ。
エンジン性能
ムチウチを危惧する程の加速感
E55のアクセルペダルに足を乗せると、アクセルペダルを踏むことを躊躇するような力強いトルクが足裏を通してひしひしと伝わってくる。まるでE55がダウンサイジングターボの加速に慣れた現代人に排気量こそが正義だと訴えかけてくるようだ。
勇気を出してドライバーがアクセルペダルを奥まで踏むとエンジンはすぐさま2500回転を超え、トルク71キロの巨大なパワーで背中がシートに押し付けらる。驚くことに、このエンジンは低回転である2650回転~4000回転までの約1500回転で、ピークトルクの71.4キロを発生させるのだ。その後、エンジンはスムーズに回り6100回転を超えるとフィナーレを迎える。このエンジンは、約2000回転~6000回転の約4000回転が美味しいエンジンだ。
ドライバーへと伝わってくるエンジンフィーリングは量産エンジンと比べてかなりレスポンスが良い。ただし、後継のM156エンジンやM製エンジンと比べると、ややガサツなフィーリングと言わざる得ない。
私はこの洗練させれていない感覚が、20世紀のチューニングカーらしいと雰囲気に思えて楽しめますが、このフィーリングの好みや評価は分かれるだろう。滑らかなエンジンフィールを求める方ではなく、とにかく力強いパワーを感じたい方が好きになるエンジンだろう。
AMGの手によるバリスタ手術
では、どのようにしてE55の恐ろしいエンジンが造られたのかを解説していきたい。
『M113K』はAMGの職人の手でハンドメイドで造られたエンジンだ。
当時はAMGやKleemanといったドイツのMercedesを得意とするチューナーがスーパーチャージャーを組み合わせたエンジンを作っていた。そして1999年に独立系チューナーだったAMGはMercedes資本となる。AMGがMercedes資本となって直ぐに生まれたのが、M113(5000cc)をロングストローク化し5500ccと大型化し、さらにIHI製のスーパーチャージャーを載せたM113Kである。
M113Kに搭載されるツインスクリュー・スーパーチャージャーは容量が1Lあり、テフロン加工されたアルミ製シャフトは23,000rpmで回転し、毎秒0.5kgの0.8barの空気を送り出す能力を持っている。加えてこのスーパーチャージャーの空気は水冷式インタークーラーで冷却されることにより、熱による損失を防いでいる。
もちろんエンジン内部にもAMGの手が加わっており、具体的にはカムシャフトは軽量化されよりアグレッシブなプロフィールを持ち、シリンダーヘッドも最適化され、バルブスプリングは回転数を向上させる目的で硬化されている。その結果、M113に比べロングストローク化されたにもかかわらず、ピークパワーの発生回転数は5600rpmから6100rpmへと高回転化を果たした。ロングストローク化にも関わらず高回転化、トルクバンドの拡張に成功しているのがAMGの技術力の証だ。
超大型でありながら軽量エンジンを搭載
さらに驚くべきことに、この5.5.Lのスーパーチャージャーを積んだV8エンジンは予想に反して軽い。
ノーマルのM113エンジンは206キロ。E55に搭載されるM113K単体のエンジン重量は公式でアナウンスされていないのだが、M113エンジンよりも軽量かつ高強度の内部パーツを使用していることを考慮すると、M113Kはスーパーチャージャーを載せない状態では205kg前後と想定される。スーパーチャージャーの重量を10kg加えて215kg前後だと想像される。M113Kより後年に登場した軽量で有名なBMWのE92M3に搭載される4Lエンジン(S65B40A)が202キロであることを考えると、M113Kはかなり軽いエンジンということがわかるだろう。
余談だがSLR McLarenのM155エンジンはM156エンジンに似た名称だが、実は設計のベースにM113Kを用いていることからも、このエンジンのポテンシャルの高さがうかがえる。
ミッション性能
耐久性に優れたミッション
この大トルクの加速感を味わうために一役買っているのが、モード切り替え機能付きのミッションだ。E55の真の性能を発揮するためには、センターコンソールにあるボタンでコンフォート、スポーツ、マニュアルの設定を変更し、オートマの変速パターンをマニュアルに切り替える必要がある。
Mモードでは、手元のパドルシフトで操作ができ、任意の回転数に調整可能となると同時にスロットルコントローラーの介入が大幅に減ります。さらに、現代のセミオートマに多い自動でのシフトチェンジはなくなり、レブに当たっても自動で変速することはなく、ほぼマニュアルとして機能する。
また、トルコンATのため、シフトダウン時の変速ショックは少なく、コーナー手前で変速をしても変速ショックに起因する過度なフロント荷重になる心配がない点が扱いやすい。
しかし、E55に採用されたミッションは最終減速比が「2.647」と加速性能には全く向かないギア比が採用されている。最終減速比の値が高くなるほど、加速性能が上がり最高速度は下がる。値が低くなるほど、加速性能が下がり、最高速度が上がるのだ。E55はドイツのアウトバーンで最速のグランドツアラーを標榜していたため、このようなギア比が採用されたのだと思われる。
参考までにBMWのM3だと最終減速比は3.5前後が多く、国産スポーツカーでは4.0以上の車種も数多く存在します。ギア比を見るとE55はあくまでグランドツアラーであり、BMWのMとは大きく異なるキャラクターを打ち出していることがわかる。
ギア | 変速比 |
第1速 | 3.595 |
第2速 | 2.186 |
第3速 | 1.405 |
第4速 | 1 |
第5速 | 0.831 |
後退 | 3.167/1.926 |
最終減速比 | 2.647 |
コーナリング性能
玄人志向の曲者を制す
E55のドライバーは直線でアクセルを踏むとき以外にも、ドライバーの腕が求められる一台だ。ワインディングを駆け抜けようとした際に、ハンドルを雑に切るだけでは車は思い通りには曲がらない。
ドライバーはコーナリング時に繊細なペダルワークが求められる。良く言えば玄人志向、悪く言えばアンダーステア傾向の特性だ。ステアリング操作ではなく、荷重移動で車を曲げる必要があるのだ。
E55は荷重をしっかりとフロントタイヤに荷重を載せた状態でステアリングを切ることにより、ロングホイールベースが生み出す安定感のあるコーナリング性能を発揮する。しかし、荷重移動ができないドライバーにとっては、パワーが極めて高い凶暴なグランドツアラーとなってしまう。
しかしながら、車のボディ剛性、サスペンションはとても良く設計されているので、ドライバーのアクセルワークに対して車は非常に素直に動いてくれる、そのためドライバーが車をコントロールする喜びはとても高いのだ。
決してコーナリングマシンとは言えないが、癖のあるコーナリング特性を攻略したときに、車とドライバーの強い一体感を感じることができる一台だ。
サスペンション性能
牙を隠した絨毯のような乗り心地
E55の乗り心地はとてもよい、まさにEクラスのフラグシップに相応しい落ち着きのある上品な乗り心地だ。4輪全てにエアサスが採用されたことにより、車の動きは全体的にしっとりとしており、不快な突き上げ感は一切なくどっしりと4輪が設置する安心感がある。
乗り心地を良くしすぎると路面からのインフォメーションがなくなり、スポーティーな運転に不安感を覚える車も少なくないが、さすがはAMG、E55は乗り心地を重視しながらもサスペンションは路面追従性が良いのだ。
フロント4リンク、リアマルチリンクの豪華なサスペンション形式となっており、フロント、リア共に沢山のストローク量が確保されている。さらに、足回りのパーツ1つ1つがオーバークオリティの品質で設計され、まさにW124時代の最善か無かと呼ばれた時代のMercedesのような強固な堅牢感がある走りを実現している。そのためエアサスを採用しながらも路面に段差やつなぎ目がある場所でもジオメトリー変化が起きにくく安定した乗り心地と安心感を両立している。
また、このエアサスは硬さを3段階で調整でき、サスを固くするとで車高も自動で下がるようになっている。これは車高を下げることで高速走行時の安定性を上げる仕組みとなっている。
サスペンションが固くなるとはいっても、一番スポーティーな設定を選んでも乗り心地の良さは変わらず、車の遊びが減りステアリングインフォメーションが増えてくる味付けだ。 同じAMGでもW204C63のようなスポーティーなサスペンションではなく、超高速で移動するグランドツアラーとしてお手本ともいえるセッティングだ。
シャシー性能
ギャップの激しい二面性を生むボディ
E55の車内はあまりにも静かで、まるで新幹線に乗車しているような感覚におちいる。どのような感覚かというと、ノイズや振動が少ないので車が高速で移動している事を忘れてしまうのだ。
E55の大きな魅力の1つには強固なボディ剛性が上げられる。極めて速い速度域になっても一切ボディが歪まず、速度を出している感覚がない。さらに、空力と遮音にこだわったMercedesらしいボディは車内に風切音やロードノイズが一切いれない。そのためドライバーは速度計をみていないと速度が出ていることをつい忘れてしまう。20年近く前の車でありながら、現代の車に勝る安心感があるのだ。
その理由はAMGは普通のEクラスと比べると溶接箇所が圧倒的に多いことだ。ボディ開口部へのスポット増はもちろんのこと、ボンネットやトランクといったモノコックボディの構成外のパーツの隅々まで徹底的に補強がなされている。
これらのコストを掛けたボディチューニングによって、E55は暴力的な加速をするモンスターセダンでありながら、マニュアルモードに切り替えてアクセルを踏まない限りは、オーディオでお気に入りの音楽を聴きながらプライベート移動できる新幹線ともいえるほど上品で優雅な時間を過ごすことができる二面性をもった一台なのだ。
車重
抜かれてしまったAMGの牙
E55の良さでもあり、弱点でもあるのが車重だ。車重は重厚感ある走りの質感を生む上では重要な要素だが、スポーティーな運転ではデメリットになることが多い。
E55と同世代(W211型)のノーマルラインナップの中で、V8エンジンを積むE500の車重は1790キロだ。E55は120キロの重量が増している事がわかる。 Mercedesの哲学に則りシャシー性能をエンジンパワーが超えないように、エンジンパワーが増えた分、溶接箇所を増やしたり、補強パーツを増やしたり、ドアを大幅に補強したりとシャシー性能も底上げしているのだ。 このあたりは高級車らしい上品な乗り心地や先述の新幹線のような安心感と快適さを生む上で重要な要素とも言えますが、Mercedesに買収されたことでMercedesの哲学に従いAMGの牙が抜かれてしまったとも言える部分だ。
重量配分
実は重くないフロント
フロントにV8エンジンを積みフロントヘビーなイメージのあるE55だが、実は車の前後重量バランスは悪くない。フフロント軸重1010:リア軸重900 F:R=52.9:47.1 と加速時のトラクションなどを考えるととてもバランスが良い。
しかしながらコーナリングフィールとしては、先程述べたようにシャシー剛性バランスが理由でアンダーステアなステアリング傾向となっているため、ドライバーの印象としてはフロントヘビーな感覚が強くドライバーには丁寧な荷重移動が求められる。
※シャシー剛性の前後バランスが理由で、アンダーステアになる理由については別の記事でまとめる。
空力性能
エレガントなのにプリウス並の空力性能
E55の空力性能は同世代のプリウス並に優れているのだ。W211のcd値は二代目プリウスと同様のcd値0.26なのだ。(新型プリウス:0.25)
E55はその洗練された美しさを損なうことなく、伝統的に空気抵抗が大きいとされるセダン形状にもかかわらず、その抵抗をうまく減少させている。これこそがMercedesの技術力と開発能力の結晶といえるだろう。
外見ではわからない強力なエアロパーツ
またE55は外見上は大人しいが、実は多数のエアロパーツが採用されている。 例えば、フロントスポイラーは角が分厚い形状をしているが、これはダウンフォースを生むための形状だ。
また、サイドスカートは斜めにラインがクロスする形状をしているが、これらはリアタイヤに当たる風を渦巻状にするための工夫で、渦巻き状の風によってホイールハウス内の空気をホイールハウスから引っ張り出してリアタイヤ付近の揚力を取り除きタイヤのトラクションを稼ぐための機能性パーツだ。
またE55以外のMercedes全般に共通するエアロデザインだが、ボディのサイドをみるとプレスラインが三分割されている。この三分割されるプレスラインはデザイン的な効果だけではなく、空気を上・中・下で分離することで、それぞれの空気の流れを整流し、車体が引っ張る空気を減らす役割があるだ。
このようにE55は空力特性においても、羊の皮を被りながら狼の性能を秘めているのだ。
ブレーキ性能
車重を力で制する8ポット
E55のブレーキシステムは、1910キログラムの重量をもつ車体をいとも簡単にスームズに停止させる能力を有している。その理由は単純だ。フロントにスーパーGT車両に搭載されるようなbrembo製の8ポッドの巨大なブレーキキャリパー、そしてリアにもbrembo製の4ポッドのブレーキキャリパーが装備されているからだ。これらのキャリパーは極めて高剛性で、全力でブレーキをかけたとしても、キャリパーが開くことはまったくなく、キャリパーとローターの信頼性も非常に高いという特徴がある。
しかしながら、このブレーキシステムには一つだけ欠点が存在する。それは、純正のブレーキパッドにより、ブレーキを踏む初期段階で少々の遊びがあるのだ。これは、意図的に遊びを作ることで、ブレーキタッチに神経を使わずMercedesの優雅なクルージングを提供するためのセッティングだと思われる。しかし、E55の強烈な加速性能を発揮する際、ブレーキの踏み始めの遊びは確かに少々の不安を感じさせる要素だと感じた。(この遊びはパッドを交換するだけで改善できます。)
まとめ
チューニングカーの香りが楽しめる最後のAMG
E55は優雅なクルージングとアドレナリンが出るアグレッシブな体験を一台でこなせる、二面性やギャップがある車を探している方にオススメの一台だ。
とにかく、じゃじゃ馬なエンジンで、コーナーもしっかりと丁寧な運転をしないとコーナーを速く曲がれない、そんな車の癖を攻略するのが好きな方はツボにハマってしまうだろう。
2023年では0→4.8秒最高速度300キロオーバーの車は珍しくなくなってしまったが、5500ccにスーパーチャージャーを加えることで生まれた暴力的なエンジンは、現代のダウンサイジングターボでは味わえない特別な鼓動を持っている。
現代の効率的かつスマートなエンジンに慣れてしまった方に是非一度、この唯一無二の感覚を味わって欲しい。
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