【徹底レビュー | BMW E92 M3】BMWエンジンの中でも至高の一台

試乗レビュー
製造年2001-2007
エンジン型式S65B40
排気量3999cc
最高出力420ps/8300rpm
最大トルク400Nm/3900rpm
PWR 3.88
PWR/FG 1.01
GWR 3.20
種類V8DOHC8連スロットル
全長 / 全幅 / 全高4620mm / 1805mm / 1425mm
ホイールベース 2760mm
車両重量1550kg
乗車定員5名

総括

この車は、BMWエンジンの中でも至高の一台と言えます。エンジンの気持ちよさや、コーナーを曲がる気持ちよさを高速道路で堪能できるグランドツアラーとしての性能を持ちながら、BMWらしいスパルタンな走りも兼ね備えた万能選手としても活躍します。また、ドイツのエンジン屋であるBMWが開発した、最後の NAエンジン を搭載したM3モデルでもあります!

今回はそんなBMW E92 M3について詳細に解説していきたいと思います。

動力性能

加速性能の総括

エンジンは、パワーだけでなくレスポンスや気持ちよさにおいて、通常のBMWモデルとは別格の素晴らしさがあります。また、 NAエンジン ながら、低回転から高回転まで広いトルクバンドが特徴的です。リッターあたり約105psという怒涛のパワーを、「8200回転」という非常に高い回転域で発生させる名機でもあります。(E46M3はピークパワーを7900回転で発生させており、更に高回転型という事がわかります。)3L〜4Lクラスのインターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤーにおいて、2008年から5年連続で受賞するなど、その優れた性能は世界的に高く評価されています。

エンジン性能

S65B40型エンジンは、基本的なアーキテクチャーをM5、M6用のV10エンジンと共有しており、内部抵抗を徹底的に減らし、可変吸気システムや独立スロットルを搭載することで、自然吸気エンジンでありながら、リッターあたり約105psという怒涛のパワーを発生させます。ライバルである先代E46M3の107PS/Lや先々代E36M3のM3B 95PS/LやM3C100PS/Lに比べ、高回転型であるE92M3は8300回転で最高出力を発生させ、圧縮比12.0:1により、特徴的なトルクバンドが広いエンジンとなっています。

同世代のM5、M6とは92mmのボアと75.2mmのストロークも共通しています。このエンジンの特徴は、高回転において最高出力を発揮しながらも、トルクバンドが非常に広いことです。具体的には、最大トルクが3900回転、最大出力が8300回転で、なんと4400回転ものトルクバンドを誇っています。このトルクバンドは4000回転から始まるため、中回転域からのレスポンスが鋭くなります。また、高回転域の気持ちよさ、エンジンの軽さ、アクセルレスポンス(エンジンの突き)の良さが際立っているため、高速道路でも巡行したくなる中毒性のあるエンジンと言えます。

このエンジンの性能を実現するためには、多くの技術が盛り込まれています。まずはダブルVANOSが挙げられます。この技術は先々代のE36M3Cから導入され、吸気側と排気側のカムシャフトのバルブタイミングを可変調整し、給排気を最適化しています。

4Lもの燃焼室が8200回転も回ると、相当な空気量が必要になります。BMWは吸気側へのこだわりをすごく重視しており、量産エンジンでありながら、8つの気筒ごとに独立したスロットルボディを採用して吸気効率を高めています。さらに、スロットルが独立することで、各シリンダーに適切な空気を送るだけではなく、空気をたくさんエンジンに取り込む工夫があります。このエンジンには3つの吸気口が空けられており、純正で3口もある車は他に知られていません。また、1つ1つの吸気口も空気の流れを阻害しない設計になっており、エンジニアのこだわりをいたるところに感じることができます。

エンジンブロックはアルミ鋳造であり、シリンダ壁は結晶化したシリコン粒で摩擦を減らし、高回転化を実現しています。この技術はW212型E63AMGなどでも採用されている「シリテック」と呼ばれるものです。加速時はエンジンからオルタネーター(発電機)が切り離され、パワーを削がれないように工夫されており、さらにこのエンジンは単体で202kgしかなく、先代の直6エンジンよりも15kgも軽量です。V8になってフロントが重くなっているわけではありません。

余談ですが、ここまでの吸気効率を高めるためには排気効率も徹底されていることが容易に想像できます。試乗時には、エキマニ形状やマフラーの内部構造などの排気側もチェックしたいと思います。

コーナリング性能

E92M3のコーナリング性能は非常に高く、微細なアクセルのオンオフ(つまり繊細な荷重移動)に対して車が敏感に反応してくれるため、運転をする楽しみをダイレクトに味わえます。それでいながらも、E46M3よりも乗り心地がマイルドになり、長距離運転がメインのユーザーでも気軽に楽しめるMとして進化しています。

サスペンション性能

またE46M3よりも上品なグランドツアラーになりましたが、あえて悪く言えば走りのスパルタンさを失ったという評価もあります。実際には、E46M3よりもよりスポーティーな乗り心地という印象はありませんでした。

ただ、スポーティーさとスポーツ走行性能は似て非なるものです。実際に運転して感じると、バネや減衰力が柔らかくなりストロークも増え、ロールはするものの、足回りの素性が良く、コーナリング性能が高いです。特にリアサスペンションの設置感がとても高く、柔らかい足でありながらしっかりとトラクションが掛かってくれます。このため、E46M3よりも速いコーナリングが可能であると感じました。

ただ、リアサスペンションのマウントのブッシュがE46よりも大型化されたためか、柔らかくなったためか、リア側のトラクションは掛かるものの、ダイレクト感が薄い印象がありました。そのため、ダイレクト感を増すことで、サーキット走行でのタイムが伸びたり、ドライバーと車のコミュニケーションが楽しくなると感じました。

シャシー性能

ホイールベースは約3センチアップで、この当時の他のモデルに比べてホイールベースの延長は最小限に留めながらも、トレッド幅がE46に対して広げられ、またリヤタイヤも当時としては太い265を履くことで限界性能を引き出しています。

BMWの回頭性の良さは、ボディ剛性バランスの最適化によるものです。絶対的なボディ剛性においては、Mercedes-BenzやAudi、PORSCHEといったドイツメーカーの方が優れています。特に素のE923シリーズは同世代のドイツ車に比べてボディ設計が未成熟で、長距離運転時の安心感や足回りの設置感に欠け、コーナーを速く曲がっているにもかかわらず、実際の速度についてはそうでもないことがあります。

しかし、これは悪いことではありません。BMWはドイツ車の中でも軽量なシャシー設計を得意としており、これにより運動性能を高めています。特にM3という尖ったモデルを完成させるために、通常の3シリーズが剛性よりも軽さを優先していることは功を奏しています。通常モデルより高価格で売られるM3では、通常モデルでは生産時の効率性の観点から装着が難しいボディ補強パーツを多数装着することができます。これにより、ボディ全体は軽量化しながらも、スポーツ走行に必要な足回りの剛性や足回りの取り付け剛性などを集中的に強化することができ、車重の割に高い剛性なボディを作ることができます。このM3では、リア側のサブフレームがボディと太い補強ブレースで締結され、素の3シリーズで感じたリヤのボディがヨレる感覚や高速域でのつなぎ目や段差を超えたときのふわっとした感覚はなくなっています。

また、BMWはリアの剛性よりもフロントの剛性を重視することにより、ステアリング操作に対して素早い反応を実現しています。

特にMシリーズではこの設計が際立っており、E92M3では純正の状態でも△形状のストラットタワーバーがエンジンルームに装着されています。一般的なメーカーでは、横一直線にタワーバーをつなぐ場合が多いですが、BMWは左右ストラットとバルクヘッドを△でつなぐことにより、環状構造を生み出し、左右二点を止めるよりも飛躍的に高い捻り剛性を実現しています。(環状構造はねじりに対して非常に高い剛性を発揮するため)

一方、Mercedes-Benzは逆にリア側の剛性を高めることで安定性を重視したセッティングを実現しています。この設計はBMWとは対照的です。ただし、W204やW212のAMGについては、BMWのようにフロントの剛性を高めたクイックなハンドリングとなっています。

車重

E46M3から約100キロ重たくなっているが、安全装備を増やさなければならない時代背景を鑑みると、この重量増は避けられなかったのではないかと思われます。実際、クーペモデルではカーボンルーフを採用し、5キロの重量削減と低重心化に寄与していたほか、ボンネットには軽量アルミ素材が用いられています。また、エンジン単体では軽くなっていることからも、止むを得ず重量増を招いたといえるでしょう。

このあたりはM3が3シリーズをベースにするという制約がある以上、後部座席空間の確保など様々な制限がある中で避けられなかったものであるといえます。

重量配分

M3のもう一つの魅力は、49:51の理想的な前後重量配分を実現していることです。この理想的な重量配分を4人乗りの車で実現している車種で4人がしっかり乗れる車は非常に少ないです。トランスアクスルレイアウトや2シーターが多い中で、大人4人がしっかりと座れる車で、この重量配分を実現したのが、このM3の素晴らしい点です。この重量配分を実現するために、直6を捨ててV8に切り替えましたが、パワー競争に負けないように、V8エンジンをシリンダーの2本少ない直6よりも15キロも軽く仕立て上げたのはBMWの執念でしょう。実際にこの車でワインディングを走ったインプレッションとしても、コーナリング性能はV8エンジンが積まれているとは思えないほど素直です。(筆者はV8SC搭載のE55AMGに乗っています)

また、BMWの執念とも言える重量配分の適正化により、日常生活で味わえる効果としては、コーナーを曲がる際のステアリングの切り始めにおいて、ノーズの入りが非常に軽快になることが挙げられます。さらに、サーキットでの使用においては、限界領域での効果が期待できます。具体的には、4輪のタイヤの限界付近や限界を超えた動きに余計なアンダーステアが出ないため、車がドリフトに近い状態になった場合でも、50:50の車はアクセルの加減によるピッチングでアンダーとオーバーを非常に繊細に操ることができます。そのため、熟練したドライバーにとって、限界領域でのコントロール性が高い車となるでしょう。

空力性能

この車両は空力特性に対して特質する点がないため割愛します。

ブレーキ性能

制動力

このマニアック記事を読みたい人はパッドやタイヤなどをアフターパーツに変更し制動力をあげるとおもうので制動力は割愛します。
ただし、ブレーキバランスで詳細に記載しますが、ブレーキバランスがよくフルブレーキ時も4輪全てが地面に設置するために、制動力はパッドサイズに対して高い制動力を果たせるポテンシャルがあるとおもいます。

ブレーキタッチ

この車はBrembo製ではありませんが、大型のブレーキを搭載しており、通常の使用では十分なブレーキフィールを持っています。さらに、BMWらしい味付けでブレーキペダルを踏む力に対しても、リニアに反応してくれるため、純正車種の中ではコントロールしやすく扱いやすいです。一方、AMGなどは高級なブレーキキャリパーを採用しているにもかかわらず、ブレーキマスターシリンダーバックなどが原因でブレーキペダルの機構が通常のベンツと同様になっており、遊びが多くてコントロールしづらいという点があります。しかし、この車は扱いやすく、コントロールしやすいという点で優れています。

ブレーキバランス

この車の前後のブレーキバランスがよく、4輪が均等に沈み込む扱いやすいブレーキとなっています。この点は、車両の前後バランスの素性の良さやリアサスペンションの設置感の高さなどにも関係しており、ブレーキだけでは実現しにくいものです。この車のブレーキは、扱いやすさが特徴的であり、前後のブレーキバランスと相まって、車両全体のバランスの良さを感じることができます。

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長尾 孟大

長尾 孟大

株式会社Carkichi 代表取締役 。慶應義塾大学卒業後メガベンチャーに就職、プロジェクトマネージャーとして新規事業の立ち上げを行う。 その後、車好きがこうじて「クルマ好きを増やしたい」という思いで独立、その後自動車業界に特化した映像制作やマーケティング支援を行うCarkichiを設立。2020年9月法人化。2023年MBA取得。自動車メディア「旧車王ちゃんねる」「外車王SOKEN」などへ出演、寄稿中。趣味はカート、愛車はE55AMG。いつか手に入れたい車はR35GTR 2013モデル / S2000 / アリエルアトム。

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長尾 孟大

長尾 孟大

株式会社CARKICHI 代表取締役 映像制作、モータースポーツ企画。2020年9月法人化。 自動車メディア「外車王SOKEN」へ寄稿中。Esports World (Powered by AKRacing)にて「eスポーツはアマチュアレーサーの練習になるのか? 『アセットコルサ コンペティツィオーネ』×「K-TAI」で検証してみた」(2021年12月24日付)と題して、掲載される。

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