【徹底レビュー|BMW E36 M3(M3B)】クーペ×高性能を民主化させた一台

試乗レビュー
エンジン型式S50B30
排気量2,990cc
最高出力286ps(210kW)/7000rpm
最大トルク32.7kgm / 3,600mm
PWR5.10 (M3C=4.58)
PWR/G1.62 (M3C=1.42)
GWR3.11 (M3C=3.13)
種類直6 DOHC 24バルブ
全長/全幅/全高4435mm / 1710mm / 1365mm
ホイールベース2700mm
車両重量1460kg
乗車定員5名
新車時価格730万円


E36 M3は、限定登場したレース用ホモロゲーションモデルであるE30 M3の後継として、「M3」の名を冠して登場した。だが、先代のようなスパルタンなレーシングマシンではなく、現代のM3に通じる日常からサーキットまで一台でこなすマルチパフォーマンスカーとしてのM3として誕生した。つまり、今に続く羊の皮をかぶった狼というコンセプトを体現した最初のモデルがこのE36 M3だ。もし、この車がつまらなかったら、M3は現在まで続いていないかもしれない。

それどころか、AMGやRSといったドイツ車のハイパフォーマンスモデルも、現在ほどのラインナップや人気はなかったかもしれない。そんな潮流を生み出した一台を紹介したいと思う。

今回はその中でも、レビュー対象として前期モデルのM3Bを紹介する。後期モデルはエンジンが全く違うため、後期(M3C)とは別の車としてレビューを掲載する。

加速性能

この車は90年代前半のNAエンジンであるにも関わらず、リッター100馬力に迫るパワーを持つ名機である。その加速性能も当時としては非常に優れており、0から100kmへの加速はわずか6.0秒であった。E36 M3Bの魅力の一つは、前モデルのE30 M3が4気筒エンジンを採用していたのに対し、排気量を2990ccまで増大させ、直6エンジン、いわゆるシルキーシックスに進化したことである。これらは、この車が純粋なレーシングカーから日常使用からサーキットまでこなす万能選手へと進化したことを示している。

エンジン性能

理想的なエンジンへの序章

「S50B30」は、その後E46 M3に搭載される「S54B32」へと続くエンジンの一部と言える存在である。E36 M3の前期型、後期型、そしてE46 M3、それぞれのエンジンフィールに注目して試乗する機会があれば、その進化を実感していただけるだろう。このエンジンは一つの三部作とも言え、E46 M3の時点でエンジニアが目指していた完成形に到達している。

私自身が開発に関与していない立場から見ると、これらの三台に乗るとそのように感じられる。同じ系統のエンジンが世代を経るごとに洗練されていく様子は見ていて感慨深い。

長い前置きとなったが、「S50B30」型エンジンの素晴らしい点は、シリンダーヘッドにポリッシュ加工が施され、当時としては珍しいシングルVANOSという可変吸気システムを採用していることである。さらに、スロットルボディは独立した形状を持ち、工場出荷時からチューニングされたエンジンのような風貌をしている。

高回転でのフィーリングが良いエンジン

実際に試乗した感想としては、非常に良好なフィーリングを持つエンジンであると言える。特に吹き上がりのレスポンスが良く、高回転時のフィーリングが素晴らしい。だが、低速トルクにはいささか欠ける。

後期型になるとダブルVANOSが加わり、排気抵抗をコントロールできるようになる。それにより、低速トルクも強化され、低回転域での加速性能が向上し、エンジンのピックアップも低回転から高回転にかけて改善される。

Mの直6エンジンの進化の過程を観察すると感慨深いものがある。高回転域での吹き上がりの良さは後期型にも劣らず、ショートストロークのため高回転域でのピックアップにおいてはこちらが有利であると言える。

スポーツカーの高性能化が著しい現代にあって、E36 M3を選ぶユーザーは絶対的な速さを求めているわけではないであろう。それよりも、精密に計算され、精確な機械が生み出すエンジンフィールを求めているのではないかと思う。そういった方々には、前期型と後期型のエンジンを両方試乗し、自分の好みを見つけてみるのも一考に値する。

余談であるが、アメリカではM3の名を冠しながらも、独立したスロットルボディを持たない240馬力版の廉価版M3が販売されていたのである。

ミッション性能

マニュアルのみの男気仕様

M3Bの興味深い特徴は「マニュアル設定しかない」ことである。ミッションは5速マニュアルのみが用意されており、M3Cにて初めて登場するSMGや、一般的なATを搭載したモデルは存在しない。これはスパルタンな側面を示している。この姿勢からは、BMWがM3に対して特別な思いを持っていることが感じられ、車愛好家としては大いに好感が持てる。ただし、売れるかどうかわからないホモロゲーションの制約から逃れたM3のラインナップを増やす意図もあったのかもしれない。

5速に直結ギアを持ってくることで加速性能を重視

一般的には5速ミッションの場合、4速が直結ギアとなるが、BMWは5速を直結ギアにして加速性能を重視したというのは、BMWらしい選択であると言える。だが、ファイナルギアは3.16と、“M”としては比較的控えめである。

それは、E46以降のM3ではファイナルギアが3後半となっているからである。これはAMGとは対照的なセッティングで、MがAMGよりもサーキットでの性能を重視していることが明らかに表れている。

これらの事実から、現代のM3の系譜に連なる実質的な初代とも言えるE36 M3は、BMWが今後のMをどの程度スポーティーなモデルにするかを模索していたモデルであったとも考察できる。

ギア変速比
第1速4.20
第2速2.49
第3速1.66
第4速1.24
第5速1.00
最終減速比3.15

コーナリング性能 – アウトバーン特化のツアラー

意外なことに、E36 M3は長距離ドライブ向けのグランドツアラーという性格付けがなされているのである。Mの冠がついていることから、クイックなハンドリングを想像するかもしれないが、丁寧に荷重移動を行うことで車は忠実に動くタイプであり、MercedesのEクラスのようなセッティングに近いと言えるだろう。

リア側には安定感があり、ステアリング操作だけでは車は素早くは動かない。しかし、荷重移動を丁寧に行うことで車は忠実に動く、そんなセッティングが施されているのである。

サスペンション性能

M3C(後期型)と基本的には一緒のため詳細はコチラをご覧ください。

シャシー性能

M3C(後期型)と基本的には一緒のため詳細はコチラをご覧ください。

車重

E36 M3のメリットは軽さでしょう。E36 M3(M3B)は1460キロと後期型よりも10キロ軽い。大人がしっかりと四人乗って移動できるクーペで1500キロを切るモデルというのは現代では稀有と言えます。ちなみに現代のBMWでパッケージングの近い新型M2(G87)は車重が1710キロもあります。

重量配分

まだこの世代では50:50の前後バランスは実現していません。

空力性能

M3C(後期型)と基本的には一緒のため詳細はコチラをご覧ください。

ブレーキ性能

M3C(後期型)と基本的には一緒のため詳細はコチラをご覧ください。

まとめ – Mの進化過程を堪能する

E36 M3の利点の一つはその軽さである。E36 M3(M3B)は1460キログラムと後期型よりも10キログラム軽い。大人がしっかりと四人乗って移動できるクーペで、1500キログラムを切るモデルというのは現代では稀有な存在だと言えるだろう。なお、現代のBMWでパッケージングが近い新型M2(G87)の車重は、1710キログラムとなっている。

E36 M3は、E46への進化の過程を味わうことができる一台だ。また、BMWが「M」をラインナップのどの位置に据え、どう育てていくかを模索していた時期の車であるから、その点でも興味深い一台だと言える。AudiのRSやMercedesのAMGといったライバルが登場し始めた時期の、「M」の個性が強まる前の姿を知りたいという方には特におすすめだ。

さらに、エンジンフィーリングは前期と後期で異なる。前期が後期より良いというわけではない。前期と後期を乗り比べて、自分の好みに合うフィーリングのモデルを選ぶことで、満足度の高いカーライフが期待できるのである。

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長尾 孟大

長尾 孟大

株式会社CARKICHI 代表取締役 映像制作、モータースポーツ企画。2020年9月法人化。 自動車メディア「外車王SOKEN」へ寄稿中。Esports World (Powered by AKRacing)にて「eスポーツはアマチュアレーサーの練習になるのか? 『アセットコルサ コンペティツィオーネ』×「K-TAI」で検証してみた」(2021年12月24日付)と題して、掲載される。

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