【徹底レビュー | BMW E60 M5】BMW最初で最後のV10エンジン

BMWの試乗レビュー
エンジン型式S85B50
排気量4999cc
最高出力507ps(373kW)/7750rpm
最大トルク53.0kg・m(520N・m)/6100rpm
PWR3.76
PWRG1.04
GWR3.48
種類5リッターV10 DOHC 40バルブ NA
全長/全幅/全高4870mm / 1845mm / 1470mm
ホイールベース2890mm
車両重量1880kg
乗車定員5名
新車時価格1410万円

  • 「能ある鷹は爪を隠す」
  • 普通の5シリーズと何も変わらない外見をした大人しいセダンでありながらなんとこのセダンはV10エンジンを積んでいる
  • BMW最初で最後のV10エンジンを”普通”のセダンで味わえる
  • 日常のなかにF1さながらの心を高揚させるエンジンフィールを持ち込むことができる
  • まさに大人の贅沢と言える一台

加速性能

このセダンは、見た目からは想像できないほどの俊足です。 加速タイムは以下のとおりです。
0→100km :4.7秒
0→200km :14.4秒

鋭く吹け上がるエンジンは、体感加速以上に車を前に加速させます。

エンジン性能

BMWが市販車に最初で最後に搭載したV10エンジン

S85B50エンジンは、BMWが市販車に最初で最後に搭載したV10エンジンです。 このエンジンの魅力はV10エンジンだけではありません。個別のシリンダーに空気を吸気する10連スロットルを備えています。普通のエンジンは1つのスロットルから吸気した空気を各スロットルへ配分しています。

しかし、このエンジンは1つのシリンダーに1つの吸気口という、チューニング業界では定番のメニューを工場出荷状態で行っており、まさにMの名に相応しいエンジンです。 このエンジンの内部構造は2ピースアルミクランクケース、ワンピースアルミシリンダーヘッド、鍛鋼クラウンクシャフト、ダブルオーバーヘッドカムシャフトで構成されており、10連スロットル以外にもこだわりを持って設計されていることがわかります。

低回転域から高回転域まで効率的に使い切るダブルVANOS

さらにBMWの独自技術である、吸気側と排気側の両方のバルブタイミングを可変でコントロールすることによって、エンジンを低回転域から高回転域まで効率的に使い切るダブルVANOSが搭載されています。 セミドライサンプ式潤滑システムを採用し、メインポンプ、循環ポンプ、そして各シリンダーバンクに1つずつ設置された2つの掃気ポンプを備えています。 MSS65エンジンマネージメントシステムは、3つの32ビットマイクロプロセッサーを搭載しており、毎秒2億回の演算が可能です。

これにより、このエンジンは7750回転という超高回転で最大出力を発揮し、8250回転という超高回転を許容します。 またエンジン重量は240キロとV10エンジンながらも、軽量化に努めたことがわかります。 さらに二年後にはこのエンジンをベースにV8化したE92M3が登場します。

エンジンの実力を味わうための「Powerボタン」

このエンジンの実力を味わうためには儀式が必要です。 それはセンターコンソールにある「Power」ボタンを押すことです。 こうすることによって400馬力に制限されていた最高出力が「500馬力」へと開放されます。さらに、スロットルレスポンスも良くなり、ワイヤースロットルのような一体感が味わえます。

つまり、この車を楽しむにはガソリン代と引き換えにPowerボタンが必要なのです。 ですがこのお財布のことを気にしなければとても気持ちいいエンジンフィールが楽しめます。 とにかく高回転域に振り切ったエンジンで、低回転域のトルクは重たい車重と相まってそれほど感じられませんが、車はどんどんと加速をしていく、5000回転より上をキープして遊べる現代においては珍しい車です。

エンジンの吹け上がりでグイグイ加速させるS2000のような加速感

そしてこの気持ちよさに身を任せているとメーターの針は恐ろしい値を指しています。 その理由はもう一つあります。 この車のトルク感はあまりないのです。実際のピークトルク自体は50キロ超えとかなりのトルクなのですが、低速からドカッとトルクが出るわけではなく、エンジンの吹け上がりでグイグイ加速させるS2000のような加速感なのです。

また車自体が約1900キロあるために、トルク50キロでは、トルクをドスンと背中で感じるようなフィーリングは得られません。 なので、首を持っていかれるような加速フィールを味わいたい方には満足できないかもしれませんが、タイムは先述の通り非常に速く、なおかつフィーリングも良いというのがこのエンジンの特徴です。

ミッション性能

「SMGⅢ」搭載による発進時の不快感の軽減

この車に搭載されているミッションはペダルのマニュアルであり、SMGというセミオートマチックになっています。トルクコンバータ式ではなく、エンジンのフィーリングをダイレクトに伝えてくれます。 また第三世代SMGである「SMGⅢ」が搭載され、E36M3後期やE46M3の初期に搭載されていたSMGよりも制御が賢くなり、停止時からの発進なども不快感の少ないものとなっているのも、優雅にクルージングを楽しみたいM5では魅力的な部分です。

高回転型エンジンの魅力である高回転域をどんな速度域でも扱える

またギア比からもBMWの駆け抜ける喜びの追求が感じ取れます。 というのも、7速あるミッションの直結ギアが6速にきており、燃費ではなく加速性能に多段化したギアを振り分けていることです。これにより、高回転型エンジンの魅力である高回転域をどんな速度域でも扱えるようにギア比が設定されています。

さらにファイナルギアも「3.6」とドイツ車としてはハイギアード化されている点も見逃せません。 このあたりは、グランドツアラーとしての比重により重きを置くAMGと対象的な点です。 参考までに同世代のライバルにあたるW211E63は出力やトルクが異なるので、直接的な比較はできませんが、5/7速が直結ギア、ファイナルギア「2.8」という高速巡行よりのギア比となっています。 (馬力、0→100km加速、最高速度といった皆が購買時に比較検討するカタログスペックではわからない細かい数値に、ブランドコンセプトが現れるのは車の非常に面白いところです)

ギア変速比
第1速3.985
第2速2.652
第3速1.806
第4速1.392
第5速1.159
第6速1.000
第7速0.833
後退3.985
最終減速比3.615

コーナリング性能

この車のコーナリングは非常にニュートラルでございますし、フロントに重たいエンジンを積んでいるにも関わらず滑らかに曲がりに入っていくことができます。 サスペンションは、町中での乗り心地を考慮しており、滑らかで嫌味のない足回りでございます。

ロールしてからの足がよく粘ってくれるため、最初は想像以上のロール量に驚きますが、ロールをしてからのリアサスペンションの粘りの良さはさすがBMWといったところでございます。 ホイールベースが長いためM3のようにキビキビとは動かないですが、フロントとリアには一体感があり、車の動きはゆったりですが、思い通りのラインをトレースできます。 なにより、V10エンジンを積みながらも5シリーズらしい優雅なクルージングを楽しめるのが魅力でございます。

サスペンション性能

足回りは「意外とソフト」といった印象

フロントにはダブルジョイントストラット式、リアにはインテグラルアーム式のサスペンション形式を採用しており、同世代のBMWと同様のサスペンション形式を採用しています。 これらのサスペンションには、「EDC」(エレクトリック・ダンパー・コントロールユニット)と称されるダンピング調整機構が装備されており、コンフォート、ノーマル、スポーツの3種類のモードから特性を選択することが可能です。

足回りに関しては、意外とソフトといった印象です。 走りに振り切ったBMWとはいえ5シリーズベースとなると、M3とは異なり、街乗りでも全く不満のない乗り心地をしています。

モードによって異なる乗り心地の体験

19インチのホイールを履いていることもあり若干角はありますが、それでもスポーツモデルとしては十分すぎる乗り心地です。

この乗り心地は程度の差はあれど、コンフォート、ノーマル、スポーツでも同様で、コンフォートやノーマルはブレーキング時にフロントがノーズダイブしてしまったり、加速性能に対して不釣り合いにロールをしてしまいます。特に気になったのは、高回転まで引っ張った状態で変速をすると、トルクが一気に抜けてノーズダイブしてしまうことです。

運転に興味がない奥様が運転されるときは、コンフォートやノーマルを選択し、オーナーがハンドルを握るときはスポーツを選ぶことになるでしょう。 正直なところ、これだけ加速性能やレスポンスに優れたエンジンを積むのであれば、コーナリングも楽しみたくなってしまうものです、、、!

19インチホイールではなく、18インチを履いて乗り心地を良くしながら、ダンパーの減衰圧をもう一段階締め上げた設定にしてくれたら、乗り心地もスポーツ走行もワンランクアップ出来たのではないかと思ってしまいます。

シャシー

5シリーズベースということもあり、ボディはしっかりと重量感あるからこその快適な乗り味に仕上がっています。 またフロントとリアの剛性のバランスが良く、ステアリング操作に対してニュートラル寄りの弱アンダーステアなセッティングにされています。 しかしながらライバルである同世代のEクラスと比べるとボディ剛性では若干劣っています。

具体的にはリア側のサブフレームの取付剛性とフロア剛性が弱いように感じます。車がロールしていく際に、車のボディ側と足回りの一体感に欠けるのです(特にコーナーの途中につなぎ目があるようなジャンクションなどではわかりやすい)。 コーナリング性能自体はBMWのMということもあり申し分ない性能で曲がっていくのですが、安心感という意味では若干気になる部分です。

車重

このモデルは1880キロと車重が重いです。 エンジンのフィーリングこそ良いのですが、この車重によって加速性能がスポイルされているという感覚は否めません。 特に馬力は500馬力ですが、トルクでみると50キロ台とE63(62kg)と比べると見劣るところがあります。

ファイナルのギア比が3.6とE63(2.8)に比べて高いので、実際の加速は同等かそれ以上かもしれませんが、もう少しパンチのあるフィーリングを味わえるようにボディが軽量化されていたら最高であったでしょう。 もちろん、0→100kmは4.7秒とスーパーカー並の加速性能なのですが、このV10をもっと軽いボディに積まれていたら?という妄想をしてしまうのです。

重量配分

データ不明のためレビューなし

空力性能 

特になし

ブレーキ性能

E60M5に装着されるブレーキは一見すると、普通のブレーキですが、ブレーキバランスは非常に良いです。 キャリパーの剛性もしっかりとあるようで、一般道で試した限りでは剛性不足でキャリパーが開くといったことはありませんでした。

しかし、ブレーキの絶対的な制動力では、もう少し制動力を重視したブレーキパッドを採用してもよかったのではないかと思います。 日本での使用では問題ないですが、ドイツ本国やヨーロッパのように日常的に高速域を出せる国では、加速性能に対して物足りなさを感じてしまうのではないかと思います。

まとめ

優雅な味付けの大人しいセダンにV10エンジンが積まれた稀有な一台です。 昔は走るのが大好きな人が、普通の車では満足できません。 日常の中にも非日常を持ち込みたい。でも激しいスポーツカーはなぁ…という方に是非一度乗っていただきたい一台です!

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長尾 孟大

長尾 孟大

株式会社CARKICHI 代表取締役 映像制作、モータースポーツ企画。2020年9月法人化。 自動車メディア「外車王SOKEN」へ寄稿中。Esports World (Powered by AKRacing)にて「eスポーツはアマチュアレーサーの練習になるのか? 『アセットコルサ コンペティツィオーネ』×「K-TAI」で検証してみた」(2021年12月24日付)と題して、掲載される。

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