【徹底レビュー | BMW E36 M3(M3C)】NAエンジンの進化の過程を味わえるマニアックな一台

試乗レビュー
製造年2012-2015
エンジン型式S55B30A
排気量3201cc
最高出力321ps/7400rpm
最大トルク 35.7kgm/3250rpm
PWR 4.58
PWR/FG 1.42
GWR 3.13
種類3リッター直6 水冷直列6気筒DOHC24バルブ
全長 / 全幅 / 全高4435 / 1710 / 1335mm
ホイールベース 2710mm
車両重量1470kg
乗車定員4名

E36M3は、先代のE30M3の後継車として、レース用の ホモロゲーションモデル として登場しました。しかし、E30M3が純粋なレーシングカーだったのに対して、E36M3はグランドツアラー としての側面を持ちながら、現在のM3の基本フォーマットを確立し、ドライビングプレジャー を提供する車として定着しました。

つまり、E36M3は、高性能なPorscheなどのスポーツカーとドライブテクニックで勝負できる“羊の皮を被った狼”というコンセプトを体現したモデルと言えます。このE36M3の中でも、今回レビューするのは後期モデルのM3Cです。エンジンが全く異なるこのモデルは、E36M3の完成形とも言えます。前期モデルであるM3Bとは異なる車として、別途レビュー記事として掲載いたします。

加速性能

この車は、NAエンジン でありながらリッターあたり100馬力を達成した、本物の シルキーシックスエンジン を搭載しています!ただし、現代のスポーツカーに慣れたユーザーから見ると、この車の加速性能はそれほど速く感じないかもしれません。しかし、このモデルを購入しようとするユーザーにとっては、フィーリングやネオクラシックな雰囲気を楽しむことが主な目的であることが多いでしょう。その意味では、非常に吹け上がりの良いNAエンジン が搭載され、満足のいく一台となっています。

エンジン性能

『S50B32』型エンジンの素晴らしい点は、M3Bに搭載されていた『S50B30』型エンジンから排気量を約200ccアップするだけでなく、シングルVANOSを進化させ、インテーク 側とエグゾースト 側両方のカムシャフト の可変バルブタイミングシステム として開発されたダブルVANOS を初めて採用したことです。これにより、出力と トルク が一層向上し、排気量3.2Lでリッター100馬力、最高出力321psを達成しました!

その後、ダブルVANOSはE46M3をはじめ、歴代Mのエンジンに採用されて進化を遂げましたが、初めて搭載されたのはこのモデルでした。

実際に試乗した感覚としては、非常にフィーリングの良いエンジンであることがわかります。下から上までの吹け上がりのレスポンスがよく、ピークパワーが7400回転で発生することもあり、アクセルを踏んで気持ちよさを味わえます。

ただし、冒頭で現代の車と比較すると速くないと述べたのは、この車はNAエンジンとしては十分なトルクを持っているにもかかわらず、E46M3のエンジンと同じ性能を期待するとがっかりする可能性があるからです。具体的には、E46M3に搭載される『S54B32』と比較して、低回転域のトルクが細くなっていることが挙げられます。これにより、吹け上がりは良く気持ちは良いのですが、車の加速においてそれほど速く感じないかもしれません。ピークトルクは約35キロとなっていますが、トルクバンドの幅が狭いため、このトルクの希薄感を感じることがあります。

ミッション性能

このモデルが初めて搭載されたSMG(シーケンシャルMギアボックス)は、ホモロゲーションモデルから日常ユースのM3への色合いを強めるために開発されました。

SMGは、従来のMTをベースにした構造で、ギアチェンジの際にクラッチが電子式油圧制御で作動するため、ドライバーはクラッチ操作をする必要がなく、シフトレバーを押し引きするだけで瞬時にギアを変えることができます。現在、スポーツカーではベーシックなセミオートやDSGの先駆者とも言える技術です。

実際にデビュー当初は、このコンセプトが懐疑的に受け止められましたが、やがてATとMTの良いところを取り入れたコンセプトが人気となり、生産終了間際には、M3の約2台に1台がSMGモデルだったとも言われています。

私自身が乗ったのは、SMGではなくマニュアルミッションでしたので、具体的なフィーリングについては他の記事を参考にしていただけると幸いです。

コーナリング性能

サスペンション性能

E36M3で優れていると感じるのは、セントラルアーム式サスペンションです。もともとはZ1用に開発されたセミトレーシングアーム式の進化系とも言えるサスペンションで、ストロークが大きく、ロールしてからのリアの粘りがしっかりしていて、非常に扱いやすいのが特徴です。

限界性能こそ現代のサスペンション形式のほうがしっかりしていますが、限界ラインのインフォメーションがとてもわかり易く、シートやステアリングを通して決して硬い足回りではないのにもかかわらず、タイヤが潰れて、車がロールして、タイヤが限界を迎えていく過程が手に取るようにわかります。

限界ラインが低いからこそ、この扱いやすさが実感できるのかもしれません。現代の車はボディ剛性がしっかりとしており、箱が全くヨレないため、サスペンションが独立して動いている傾向があります。しかしながら90年代までの車は、サスペンションの土台となるボディがヨレるため、出来の良いスポーツカーはボディのヨレをサスペンションの一部とみなしているのかのようで、ボディのヨレでつくキャンバーなどを想定して足回りのセッティングがされています。

これらは設計力もさることながら、ニュルブルクリンクやアウトバーンといった車にとって過酷な環境で何度もトライアンドエラーをすることで磨かれて完成する足回りであるため、E36M3やE46M3、Z3Mなどは、このセッティングが絶妙でボディとサスペンションの一体感がすばらしいのです。

シャシー性能

E36M3のシャシーについて、比較的アンダー傾向なセッティングであるといえます。 E46M3と比べると、リアの重みが強く感じられ、ステアリング操作に対してリアが追従するわけではありません。また、ボディ剛性に関しては、同世代のMercedesと比較するとやや劣る印象がありました。 ただ、BMWは軽さを重視するメーカーであるため、剛性よりも軽量化に注力している傾向があります。そのため、E36M3を選ぶ際には、剛性よりも車両重量の軽さを重視する方もいらっしゃるかもしれません。 ただし、もしサーキットで走行をする場合には、フロントの剛性不足に対処するために、タワーバーの装着をおすすめします。また、ボディとサブフレームの締結にも甘さがあるため、リジカラやブレースなどを用いて剛性をアップすることが重要です。

車重

E36M3のメリットは軽さであろう。
E46M3は1570キロ。それに対してE36M3は1470キロ。
なんと100キロも軽いのである。
人がしっかりと4人乗れるクーペでありながら、1500キロ以下のフィーリングが味わえるのはE36M3の大きな魅力の1つであるとおもいます。

重量配分

この世代のE36M3は、前後の重量配分が50:50にはなっておらず、前後の重量バランスについては改善が必要な部分があるとされています。

空力性能

興味深いポイントは、この車のヘッドランプに関するものです。ヘッドランプを近くで観察すると、ライト上部に小さなポッチが沢山付いていることがわかります。
これによって、空気を細かく分断することで、空気抵抗を減らす工夫がされているのです。
また、サイドミラーも空力を意識した造形となっており、ミラーの付け根に穴が空けられていることから、90年代からしっかりと空力対策がされていたことがうかがえます。細かい部分にも、技術的な精度が注がれていたのです。

ブレーキ性能

ブレーキ性能を試せる場所でインプレッションが出来なかった為に割愛

まとめ

  • BMWのNAエンジンの進化の過程を味わえるマニアックな一台
  • 絶対的な性能ではなく、エンジンの軽く老け上がるフィーリング、そしていまでは貴重になったスクエアなボディ形状
  • そしてなによりも電子制御の介入が殆どない素の車として楽しめる
  • そういった側面を持ち合わせながらも、古すぎない車なのでレッカーにビクビク怯えて遠出ができない。
  • 家族を乗せて遠出にいけない。そんなことはなく、気軽にドライバーの感性を満たしてくれる一台である。

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長尾 孟大

長尾 孟大

株式会社Carkichi 代表取締役 。慶應義塾大学卒業後メガベンチャーに就職、プロジェクトマネージャーとして新規事業の立ち上げを行う。 その後、車好きがこうじて「クルマ好きを増やしたい」という思いで独立、その後自動車業界に特化した映像制作やマーケティング支援を行うCarkichiを設立。2020年9月法人化。2023年MBA取得。自動車メディア「旧車王ちゃんねる」「外車王SOKEN」などへ出演、寄稿中。趣味はカート、愛車はE55AMG。いつか手に入れたい車はR35GTR 2013モデル / S2000 / アリエルアトム。

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長尾 孟大

長尾 孟大

株式会社CARKICHI 代表取締役 映像制作、モータースポーツ企画。2020年9月法人化。 自動車メディア「外車王SOKEN」へ寄稿中。Esports World (Powered by AKRacing)にて「eスポーツはアマチュアレーサーの練習になるのか? 『アセットコルサ コンペティツィオーネ』×「K-TAI」で検証してみた」(2021年12月24日付)と題して、掲載される。

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